傍らにコーヒーを置き、あなたは今何をしているのだろう。『珈琲時間』豊田 徹也著【読書感想】
コーヒーとは、実にメジャーな飲み物である。
面白い事に、国際的な会議の場から朝食のテーブルまで、オフィシャル・プライベートを問わず飲まれている。
多様な国や地域で飲まれているだけでなく、様々な“場”において、コーヒーは人々の傍らに置かれている。
だからこそ、そのコーヒーを介して見る彼らのエピソードは、実に多種多様なのかも知れない。
「珈琲時間 豊田徹也 著」
本書は、前回取り上げた『アンダーカレント』の作者、豊田徹也の短編集。
タイトルの示す通り、どこかしらにコーヒーが登場するエピソードのみで構成されている。
しかし後述するように、コーヒーが主役の物語ではない。
表紙には、コーヒーを飲む人々と、カップを置いた際に出来るこぼれた染みの輪郭。
この表紙だけで、今さっきまで誰かがコーヒーを飲んでいた形跡を、つぶさに思い描けるようだ。
その表現が、実に鮮やかに感じられる。
そうしてそれは、本書のコンセプトに通じるような気がする。
あなたを分かっていた、つもりだった。『アンダーカレント』 豊田 徹也 著【読書感想】
きっと、万人には薦められない。
けれど、誰かに読んでほしい。
そう強く思わせるものが、本書にはある。
「アンダーカレント 豊田徹也 著」
■「ひとをわかるってどういうことですか?」(p.106)
物語は、主人公の“かなえ”が、臨時休業していた銭湯を再開する場面から始まる。
そうして銭湯を営業する中、その背景が少しずつ明らかになっていく。
夫の唐突な失踪、変化した日常。それでも、日々は続いてゆく。
彼女のおばと、銭湯組合の紹介で来たという男“堀”に支えられながら、過去を回想しつつ、夫のいない銭湯を営んでゆく。
そんな中、偶然再会した友人から紹介された探偵“山崎”と出会った事から、物語は大きく動き出す。